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広島高等裁判所松江支部 昭和25年(う)80号 判決 1950年9月27日

被告人

力石市松

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人松永和重の控訴趣意第二点について。

窃盜の現場と暴行又は脅迫の現場が多少離れておつても窃盜の現場の継続的延長と見られるような場所で、窃盗犯人が逮捕を免れるため暴行又は脅迫に出たときは、刑法第二百三十八条の強盗罪が成立すると解すべきところこれを本件についてみるに、被告人は米子市加茂町二丁目十三番地中島良市方で同人所有のゴム長靴一足及び赤皮製短靴一足を窃取した現場において右中島良市に発見せられ同人において米子市加茂町所在の加茂町巡査派出所に同行の途中同派出所巡査の不在を知り、更に同市尾高町所在の尾高町巡査派出所に同行途中逃走したため、右中島良市がこれを追跡し、米子市西町地内米子医科大学裏水田畦道上において被告人を逮捕せんとしたところ被告人はその逮捕を免れんがためその場において格闘の上所携の刃物様のものを以て右中島良市に斬りつけたと言うのであるから、窃盗とは無関係な全然別個な機会に斬りつけたと言うのではなく、最初の窃盗の現場の継続的延長と見られるような場所で斬りつけたのであるから、本件は刑法第二百三十八条の強盗であること毫も疑の余地なくしかも右斬りつけたことにより、中島良市に原判決摘示のような傷害を与えたのであるから、強盗傷人罪を以て問擬すべきは当然であつて、弁護人所論のように窃盗罪と傷害罪の二罪を以て問擬すべきものではない。論旨は採用できない。

(弁護人松永和重の控訴趣意)

刑法第二百三十八条の所謂準強盗罪が成立するためには暴行又は脅迫が窃盗の現場に於て行われたことを要する。(牧野、日本刑法)

然るに証人中島良市の原審に於ける証言によると被告人は右中島と同道し、犯行の現場から米子市加茂町交番附近に至つたが右交番が不在であつたので、同市尾高町交番へ行かうとし途中千代病院に立寄りそれから米子医科大学裏に至り、ここで本件の傷害が行われたことが明らかである。

ところで弁護人が実地につき歩測したところによると、犯行現場から加茂町交番迄は約百六十七米、加茂町交番から傷害現場迄は約二百七十六米であつて、その間の大部分は人家の稠密な場所であるから、被告人はおとなしく右中島に追従したことは明らかである。そうすれば暴行が行はれた地点は場所的にいつて犯罪の現場とはいえないことは明らかであるし、又行為の上から見ても窃盗行為とその事後の傷害行為との間には関連性がないと認むべきで、従つて被告人の行為が原審通りであつたにしても窃盗罪と傷害罪の併合罪とするを妥当であると思料する。

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